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代表取締役社長 堀江信彦 スペシャル対談

マンガ月刊誌の刊行や、時代を見据えたWEBマンガのアプローチ、さらには、海外向けのサイレントマンガオーディションを大成功させるなど、マンガ界の進化・発展に、尽力し続ける日々。

それらに加えて、幾多の人気飲食店をプロデュース・運営し、果てには、地域の人々との交流をはかるために“お地蔵さん”を建立し、「じぞうビル」と一風かわった名前の自社ビルまで建ててしまう。

極端なまでに広範にわたる挑戦。それらはすべて、シンプルにマンガへの、そして子ども達への深い愛情にもとづいたものだったーー。
(2013年5月13日収録)

Theme 03

子どもたち、そして大人に向けた“生き方の情報誌”として。
「死ぬまで同じことをやり続けて、飽きた時にはきっぱり辞める」

ーー海外に作品を輸出する際には、それぞれの国の常識の違いの問題もありますね。

堀江:そうなんだよ。海外に行く時の壁は、言葉ももちろんだけど、何よりも宗教と倫理。だから限られたテーマしか伝わらない。少年誌っていうのは、人間の根源的な部分を描くことが多いから、国境を超えても伝わりやすいわけだ。

ーー『友情』や『勇気』、そういったことですね。

堀江:そう。人間の本質として必要なもの。これは宗教観などを超えて理解されるから。『努力』とか『勝利』とかね。例えば、僕たちが伝えたい“勝利感”という概念。トーナメントの物語を描くとしたら、表現しているのは最後に勝ち残る一人だけじゃない。負けても一人ひとりの勝利感を描くべきなの。たった一人の勝利者を讃えるんじゃない。負けてもいい。負けにも美しい負けがあるっていうことを教えないといけない。当然、最終的に勝ち残る一人の勝利者も素晴らしいんだけど、負けていく人たち一人ひとりにも勝利感があるんだよ。だから、少年誌ではだいたいライバルもかっこよく描かれるでしょ?

ーー憎めない悪役って、必ずいますね。

堀江:“悪くてもカッコいい”とかね。負けにも美しい負けがあるし、逆に、勝っても醜い勝ちもある。そういうことを伝えていかないとね。そういう感覚は世界的に普遍なモノだから。ただ、日本のマンガは進化しているから、そういうテーマは、どうしても子どもっぽく見られてしまうんだね。幼稚だと思われるのも分かるし、それはそれで否定はしないけど、我々は飽きずにそれをやらなくちゃいけないと思っていますね。

ーーでは、マンガは子ども達にとって、どういった役割を担うべきなんでしょう。

堀江:かつて、ジャンプやチャンピオン、マガジン、サンデーなど、それぞれの少年誌の編集長は、僕を含めて、必ず「マンガは生き方の情報誌だ」という認識を持っていましたね。

ーー生き方の情報誌?

堀江:例えば『友情』っていうテーマ。これは子どもが親元を離れて幼稚園に行った時に、痛烈に感じるテーマなんだよね。というのも、親と一緒にいると、命をかけて自分を守ってくれるし、「○○をちょうだい」ってお願いすれば与えてくれる。親は子どもを最優先に考えるでしょ? ところが幼稚園に行くと、オモチャは取り上げられるし、下手なこと言うと殴られるし、もうめちゃくちゃになるわけ。すると子どもはキョトンとしちゃって、そこで初めて「他人とどうやったらうまくやれるのか」を考える。

ーーたしかに、親といる時には考える必要のないテーマですよね。親の愛は無条件だから。

堀江:そこで子どもは「どうやら『友情』ってやつを使って、仲間とうまくやるんだ」って気付くわけ。そうすると、友情に関する情報がどうしても必要になってくる。それを提供するのがマンガの役割だったりするわけですよ。まさに“生き方の情報”だね。でもこれは大人にもあてはまる。一般社会においても、友情の結び方が分からない人なんて山ほどいるわけ。するとマンガを読んで「あ、こうやればうまくいくのか」とかね。「こういう時はこうやって謝るのか」とかを学んでいく。そういうことをマンガが担っているわけだ。

ーーただ、どうしても大人になると、「努力」とか「友情」なんて、青臭く感じることが多いですよね。堀江社長自身には、そういう感覚はありませんか?

堀江:あるある。いっぱいあるよ(笑)。とはいえ、やって報われたこともたくさんあるから。マンガに携わる仕事をしていて、散々言われ続けてきたのが「創っている方が、そういうことに飽きちゃダメ」っていうこと。死ぬまで同じことをやり続けて、飽きた時にはきっぱり辞める。そういう覚悟が必要ですよね。なぜなら、子どもたちは決して濁らないし、常に入れ替わっていくわけだから。澄んだ心で生まれてきた子どもたちに、最初から「努力」や「友情」なんか青臭いとか伝えるバカはどこにいるのって話だね。

堀江信彦
堀江信彦
堀江信彦

編集者として、「北斗の拳」をはじめ数々の作品を生み出し、週刊少年ジャンプが最大発行部数653万部を達成したときに編集長を務めた。
その後、雑誌『メンズ・ノンノ』や『BART』編集長を歴任。
2000年6月(株)コアミックスを設立、代表取締役に就任。
原作家、脚本家として作品を作ると同時に、編集者の育成に携わり、作品の質の向上に力を入れている。
(株)ノース・スターズ・ピクチャーズ代表取締役社長を兼任。

1955年 8月17日生。
1979年 集英社入社。
1993年 「週刊少年ジャンプ」編集長就任、史上最高部数を記録。
2000年 集英社を退社し、コアミックス設立し社長就任。
2001年 「週刊コミックバンチ」創刊、編集長就任。
2009年 「カフェゼノン」開業。
2010年 「週刊コミックバンチ」休刊、「コミックゼノン」創刊、編集長就任。