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代表取締役社長 堀江信彦 スペシャル対談

マンガ月刊誌の刊行や、時代を見据えたWEBマンガのアプローチ、さらには、海外向けのサイレントマンガオーディションを大成功させるなど、マンガ界の進化・発展に、尽力し続ける日々。

それらに加えて、幾多の人気飲食店をプロデュース・運営し、果てには、地域の人々との交流をはかるために“お地蔵さん”を建立し、「じぞうビル」と一風かわった名前の自社ビルまで建ててしまう。

極端なまでに広範にわたる挑戦。それらはすべて、シンプルにマンガへの、そして子ども達への深い愛情にもとづいたものだったーー。
(2013年5月13日収録)

Theme 04

豊かな表現や、様々なドラマに必要なウソとは?
「エンタテインメントは、信じることから始まるんだよ」

ーー大人になるにつれ、分かりやすいテーマを扱うマンガに手を出さなくなる人もいます。

堀江:それはね、マンガの読み方を大きく間違っている人が多いんですよ。例えばマンガを読まない人ほど、「マンガって嘘くさい」とか「現実離れしてる」とか、そういう声をよく聞くでしょ? 僕はね、すごく寂しい人たちだなって思うんですよ。マンガって紙だから、動きもなければ音もない、言わば不自由なメディアなわけ。そこでどうするかと言うと、豊かな表現するために、“ウソをつく”んですよ。

ーー不自由であるが故に、ウソを?

堀江:そう。ウソをつくと表現しやすくなる。例えば、「北斗神拳」。そんなの、ウソに決まってるじゃない(笑)。でも「こういう拳法があるんだ」と思うと、いろんなドラマが生まれる。これってスポーツに似てるよね。スポーツのルールなんて、言わばウソでしょ? サッカーで手を使っちゃいけないとか、ラグビーで前に投げちゃいけないとか、そんなの社会的に決められたことじゃない。その非現実的な設定をみんなが了解して遊ぶことで、楽しいドラマが待っているわけでしょ? その辺はスポーツと一緒。

ーーなるほど。物語における設定や世界観は基本的にはウソです。

堀江:もともと人間が創るエンタテインメントっていうのは、いくつかのウソをお互いが信じることによって面白くなるわけよ。ウソを信じて楽しめるっていうのは人間だけ。イヌとかネコとかには無理でしょ? 彼らは“リアル”にしか囲まれていないから。だからウソを信じて楽しむことができるのは人間の特権だし、暇つぶしっていうのは人間だけに与えられた最高の贅沢。人間に生まれたんだから、人間に生まれたことを楽しみたいよね。科学技術は疑わないといけない。でもエンタテインメントは信じることから始まるんだよ。

ーー今の世の中は、むしろ逆になっている気がします。

堀江:そうだよね。科学技術を信用して、エンタテインメントは信じない。僕からすると、「あなたたち、どうしたの」って思うわけ(笑)。マンガって、最初にいくつかのウソを作者が紹介するでしょ? そこで、読者が「お、このウソは気が利いているじゃない」って認めてあげたら、それはいい作品になるんだね。でも「このウソはあまりにウソ過ぎて、ダメだ!」って思われるなら、作者にセンスがないってこと。だから、漫画家は素敵なウソを創るのが大事。そのためにも演出が必要だね。寓話、フィクションっていうのはそういうもの。そこを勘違いしちゃダメ。リアルばっかり求めたら、イヌネコになっちゃうよ(笑)

ーー「子どもっぽい」と捨てるのは簡単だけど、信じた方が楽しい、と。

堀江:うん。遊びの世界なんだから。現実は現実として、リアルに囲まれている。これは当たり前のこと。その中で、ちょっとした息抜きで、ウソを信じて楽しむのが、マンガや他のエンタテインメントなんだね。でも年をとってくると、ドキュメンタリーばっかり好むようになってくるの。世知辛い現実に囲まれて、ちょっとしたウソもイヤになってくるのかな。でも人間なんだから、知らないうちにイヌやネコと同じになっちゃダメだよ。リアルも見ていかないとダメだけど、人間として楽しむところも大事だよ。民話だってそうでしょ? 民話の始まりって「あるかもしれない。ないかもしれない」って所から。でも「あると思って聞きなさい」ってことだから。

ーー確かに、『桃太郎』も『金太郎』も『舌切り雀』も、現実的にはあり得ない。

堀江:あり得ないよ。でもそれを楽しむんだよ。そうやって見れば、マンガももっと変わったものに見えてくるんだね。それを「リアルじゃない」「子どもっぽい」って言ったらそこまでだから。

堀江信彦
堀江信彦
堀江信彦

編集者として、「北斗の拳」をはじめ数々の作品を生み出し、週刊少年ジャンプが最大発行部数653万部を達成したときに編集長を務めた。
その後、雑誌『メンズ・ノンノ』や『BART』編集長を歴任。
2000年6月(株)コアミックスを設立、代表取締役に就任。
原作家、脚本家として作品を作ると同時に、編集者の育成に携わり、作品の質の向上に力を入れている。
(株)ノース・スターズ・ピクチャーズ代表取締役社長を兼任。

1955年 8月17日生。
1979年 集英社入社。
1993年 「週刊少年ジャンプ」編集長就任、史上最高部数を記録。
2000年 集英社を退社し、コアミックス設立し社長就任。
2001年 「週刊コミックバンチ」創刊、編集長就任。
2009年 「カフェゼノン」開業。
2010年 「週刊コミックバンチ」休刊、「コミックゼノン」創刊、編集長就任。